浄化槽の排水の仕組みとは?使用上の義務や上手な使い方を詳しく解説
浄化槽は家庭から出る生活排水やし尿を浄化して放流する『家庭の汚水処理場』ともいえる設備です。
しかし浄化槽についてよく知らない人や、浄化槽を設置・使用していても実際のしくみまでは知らない人が多いと思います。
環境のために浄化槽が果たしている大切な役目やそのしくみ、使用上の注意点を、詳しく解説します。
家の新築がきっかけで浄化槽使用を始める人、浄化槽を使用していてメンテナンスを考えている人など、ぜひ参考にしてください。
目次
浄化槽の種類
現在使用されている浄化槽は大きく分けて2種類です。
機能や取り扱いなど、それぞれの違いについて紹介します。これから使用予定や検討中の場合など、ご参考ください。
単独処理浄化槽(みなし浄化槽)
単独処理浄化槽は、トイレの汚水(し尿)のみを浄化する装置です。
単独処理浄化槽を使用している場合、し尿よりも汚濁負荷の高い生活雑排水(台所・洗濯・風呂・洗面など)には対応しないため、のちに紹介する合併処理浄化槽に比べると約8倍汚れている生活排水を放流していることになります。
環境保護のため、浄化槽法により平成13年4月1日から製造・販売が禁止され、現在使用している家庭は、合併処理浄化槽への転換の検討を促されています。
単独処理浄化槽と似ている設備に汚水槽がありますが、汚水槽は下水道より敷地が低い場合や地下がある物件などで、ポンプで汲み上げ下水道に流すために一時的にし尿を貯めておく設備であり、浄化する機能はありません。
合併処理浄化槽
合併処理浄化槽は生活排水(し尿と生活雑排水)を浄化するための設備です。
生活排水をそのまま流すのと比較すると汚濁負荷を約10分の1に抑えられます。
下水道の終末処理場とほぼ同程度の処理能力がありながら建設コストが安く、1週間程度でどこにでも設置可能です。
なぜ浄化槽を使用するのか
公共の下水道が普及していない地域に家がある場合、浄化槽を設置し生活排水を処理しています。
じつは公共下水道の普及率は約80%で、下水道に繋げられない地域に住む家では浄化槽を設置し、生活排水を処理してから、敷地近くの側溝や用水路などの水路に放流します。
人口が密集している地域ほど下水道の普及率が高くなりますが、人口密度が低い地域では、浄化槽を個別で運用している方が下水道を設置するよりもコスト的に優位な場合があります。
地方の過疎化や高齢化により、下水道を引くことが非効率的であるという理由で建設に踏み出せない地域もあるなかで、国は下水道と浄化槽などの排水システムを整備し、汚水処理の100%普及を目指しています。
浄化槽はその小さな設備で下水処理場と同程度の排水処理をこなしながら、川や海を守る役割の一端を担っています。
浄化槽の排水処理のしくみ
生活排水は浄化槽のなかで以下のような順で各槽を経て浄化されていきます。
- 1.嫌気ろ床槽
- 2.接触ばっ気槽
- 3.沈殿槽
- 4.消毒槽
以下で、一つずつ紹介します。
1.嫌気ろ床槽
嫌気ろ床増は生活排水が最初に流れ込む槽で、酸素のないところで働く嫌気性微生物が棲んでいます。
固形物と水とを分離する一次処理槽で、嫌気性微生物により水中の有機物(汚れ)を分解します。
2.接触ばっ気槽
酸素が必要な好気性微生物が棲む接触ばっ気槽には、バクテリアを繁殖させる接触材が充填されています。
ブロアと呼ばれる一種の送風機によって槽内に空気が送り込まれ、接触材に付着して棲みついている好気性微生物によって、嫌気ろ床槽で分解されなかった汚れを分解します。
3.沈殿槽
役目を負えた微生物を沈殿させ、きれいになった水とに分ける槽です。
ここでの沈殿物は再度、嫌気ろ床槽に送られ、分けられた水の、さらに上澄みのみが、次の消毒槽へ送られます。
4.消毒槽
消毒槽には、沈殿槽から水の上澄みが送られてきます。
きれいに処理された上澄みに塩素消毒を施して浄化を終え、浄化槽から外界の水路へと放流されます。
浄化槽使用上の義務
浄化槽を使用している家庭の世帯主のことを浄化槽管理者といい、浄化槽法に違反すれば罰則や指導があります。
ここでは浄化槽を使用するうえでの浄化槽管理者の義務について紹介します。
清掃
浄化槽を使用していくために必要なことの一つに、清掃があります。
浄化槽に流れ込んだ汚水は浄化される過程で、スカム(浮きカス)や汚泥(沈殿)といった形で汚れが生じます。
この汚れを引き抜いたり、浄化槽内部の付属装置や機械類を洗浄したりするのが浄化槽の清掃です。
浄化槽の清掃自体は浄化槽管理者自身でも行えますが、内部の異常の確認や、活性汚泥の濃度調整など、専門的な知識や資格が必要な内容も含むため、実際は業者に依頼します。
浄化槽の清掃は年一回以上の実施が義務付けられており、浄化槽が設置されている市町村長の許可を受けた業者に依頼する必要があります。
この定期的な清掃を怠ると、汚泥が溜まり過ぎて機能低下を起こし放流水質が悪化するため、浄化槽を正常に使用するためには大切なメンテナンスです。
保守点検
浄化槽の保守点検では、浄化槽に備え付けられているさまざまな装置の調整や修理、スカムや汚泥の状態などを確認します。
その他にも、清掃の年一回以上の必要性や清掃時期の判定、消毒剤の補充なども行われます。
家庭で使用されているような小型浄化槽の場合、約4ヶ月に1回の保守点検が定められています。
保守点検は、自治体や保健所の担当課や浄化槽協会に登録のある浄化槽保守点検業者、登録制度のない自治体では浄化槽管理士のなかから選んで依頼します。
法定検査
法定検査は、浄化槽の維持管理が適切か、浄化槽の機能低下などを年一回確認する、重要な検査です。
項目として、浄化槽の外観検査や水質検査・書類審査がありますが、特に書類審査は、保守点検と清掃の記録の提出が必要です。
検査結果書には、
- 適性
- おおむね適性
- 不適正
のどれかが記載され、不適正と判定された場合は結果に従い改善が必要となります。
法定検査は地元の知事に指定された指定検査機関に申し込む必要があり、受けない場合は都道府県知事から勧告を受け、従わなければ過料を科される場合があります。
浄化槽を上手に使うための注意点
生活排水をきれいに浄化して放流する浄化槽を、上手に使うための注意点を紹介します。
浄化槽と長くつきあうために、日頃から以下に気を付けて使用しましょう。
油を流さない
浄化槽に棲む微生物は油の分解が苦手であるため、油分をなるべく流さない工夫をしましょう。
鍋や食器に付いた油はキッチンペーパーなどで拭き取ってから洗う、使用済みの油を排水口から捨てないなど、日常生活のなかのちょっとしたことで油を流す量を減らせます。
てんぷら油などを捨てる際、水と油を混ぜ合わせて液体のまま排水口から流して捨てられる食用油処理剤というものがありますが、浄化槽のなかで再び水と油に分離してしまうため、浄化槽に大きな負荷がかかります。
浄化槽でなくても油は排水管にへばりついて詰まりを誘発するため、なるべく流さないようにしましょう。
微生物が分解できないものを流さない
浄化槽に棲む微生物は、なんでも分解できるわけではありません。
- ティッシュペーパー
- 新聞紙
- タバコ
- ペットの糞
- 紙おむつなど
- タバコ
- 大きな野菜くずなどの生ごみ
以上のものは微生物が分解できなかったり、負荷が高すぎて浄化能力が低下したりするため、流さないように気をつけなければいけません。
同時に不相応な量の排水をしない
水の使用量が浄化槽に対して不相応に多いと、処理水の水質が低下したり、清掃の回数が増えたりする可能性があります。
キッチンで洗い物をするのと同時に浴槽の水を抜くなど、大量に排水する場合は一気に流し過ぎないように分けるなど工夫しましょう。
水洗トイレなどで十分な水を流さないのも詰まりの原因になるため節水をしすぎるのも問題ですが、浄化槽の能力以上の水量を流さないよう、通常範囲での使用を心がけましょう。
薬剤を使用する際は注意が必要
塩素系漂白剤を浄化槽に対して大量に使用すると、微生物の働きが悪くなったり、死滅したりする可能性があります。
特に排水管の詰まりを解消するための液体パイプクリーナーなどの多くは塩素系のため、使用量には注意が必要です。
排水口の掃除やお風呂掃除などの際、さまざまな洗剤を利用すると思いますが、浄化槽を使用している場合は、中性洗剤かバイオ系の洗剤が適しています。
株式会社スリーケーの排水管洗浄液はバイオの力で排水管の汚れをきれいにし、再付着を防ぎます。
排水口から流すだけで取り扱いも簡単です。浄化槽を使用している家庭の排水管のメンテナンスにおすすめです。
まとめ
浄化槽から排水されるまでのしくみや使用上の注意点をご紹介しましたが、浄化槽に対する理解は深まったでしょうか?
家の新築を検討している人は、敷地に下水道が引かれてない場合、浄化槽が必要になるため、参考にしていただけると嬉しいです。
浄化槽を利用する場合は自治体から助成金が出る場合があるため、検討している人はぜひご確認ください。
生活排水を自然に放流できる程にまで浄化できる高性能な設備である浄化槽。
浄化槽に排水する前の時点で、私たちにできることをしっかり実践して、環境保全の一端としましょう。