浄化槽で活躍するバクテリアの種類や働き方などを分かりやすく解説
浄化槽は、私たちが生活する上でどうしても発生してしまう生活排水を、河川や用水路に放流できるレベルまで浄化してくれる、優秀な設備です。
槽内に棲むバクテリアが、生活排水に含まれる「汚れ」をエサとして分解するという、自然の力を利用するものです。
では浄化槽の中では、どんな種類のバクテリアや微生物が、どんな風にして、様々な種類の汚れを含む生活排水を分解し浄化するのでしょうか?
浄化槽内の適材適所に配置される、バクテリアと微生物の活躍について、詳しく解説します。
目次
浄化槽とバクテリアや微生物
浄化槽には、日々生活排水が流れ込みます。ここには、有機性汚濁物質が多く含まれ、物理的作用、化学的作用、生物的作用を組合わせて汚水を処理していきます。
その中で、生物学的処理は、自然界での水の浄化作用を利用したもので、それを人為的に効率を高めることで汚水処理を行います。
生物処理を行う微生物は、細菌類(バクテリア)や菌類、藻類、原生動物、微小後生動物などたくさんの群から、1つの生態系が構成されています。
そのため発生する微生物は生物処理を行う上で大切で、処理環境をしっかりと維持管理することで、処理性能を保持します。
汚水処理に関する微生物は、2000種類にも及ぶと言われており、細菌類や菌類など比較的小さなものから、原生動物、微小後生動物など大きな微生物、藻類まで多岐にわたります。
中でも、特に汚水処理で重要になってくるのは、細菌類、原生動物、微小後生動物です。
汚濁物質を細菌が摂取し、そこから原生動物→微小後生動物と食物連鎖が起こり、生物相が変化していくことによって汚水の浄化が進んでいきます。
微生物(バクテリアなど)は、浄化槽の中で棲み分けをしている
浄化槽の中では、いくつかの段階に分けて生活排水を浄化していきます。
一般家庭に一番多いと言われる「嫌気ろ床接触ばっ気槽」を例にすると、その構造は以下の通りです。
- 汚水から固形物を分離させ、それに含まれる有機物を嫌気性微生物(酸素を必要としないバクテリア等)が分解する嫌気ろ床槽
- なお残る汚れを、さらに好気性微生物(酸素を利用して働くバクテリア等)が分解する接触ばっ気槽
- 浄化された水と沈殿(微生物・バクテリア)に分けられる沈殿槽
- 上澄みの水を消毒する消毒槽
このような構造をしている浄化槽の中で生きる微生物(バクテリアなど)ですが、実は場所によって棲んでいる微生物・バクテリアの種類が違うのです。
序盤の嫌気ろ床槽で汚れを気体にまで分解してしまう、嫌気性菌
生活排水の「汚れ」とは、有機物のことを指します。
そして、浄化槽内で一番有機物を多く含む状態の生活排水が最初に通過するのは、嫌気ろ床槽です。
嫌気ろ床槽では、水や空気の流れなどで攪拌されないように、設置されたろ材を通して固形物の汚れを分離させます。
そのプラスチック製のろ材の表面には、増殖のために酸素を必要としないバクテリア「嫌気性菌」が棲んでいます。
その特徴は、増殖速度が遅い、すなわち処理速度が遅いことです。
一見デメリットのように感じますが、その分解能力は高く、最終的にはメタンガスや硫化水素と、気体(ガス)にまで分解してしまうので、処理後の汚泥が格段に少なく済みます。
一般家庭用の浄化槽内に嫌気ろ床槽が2つあるところを見ると、浄化の過程で同じ処理方法を2度繰り返すという念の入れようが伺えます。
そして、そのガスはエネルギーとして再利用が可能とされています(一般家庭用ではまだその段階ではありません)。
汚水の浄化はこのように、一次処理である固液分離と分解から始まります。
接触ばっ気槽で浄化に追い打ちをかける、好気性菌
2箇所の嫌気ろ床槽を通過して、次に汚水が向かうのは「接触ばっ気槽」です。
接触材もろ材のようなものですが、固形物をろ過するようなものではなく、その広い表面積のろ材になるべく沢山の「好気性菌」を棲まわせる形状をしています。
その接触材を設置した接触ばっ気槽では、増殖のために大量に酸素を必要とする好気性菌の為にブロアー(送風機)によって汚泥が攪拌され、空気が送り込まれます。
2箇所の嫌気ろ床槽を通過しても残る有機物を、分解の速度が速い好気性菌が、ブロアーの攪拌を受けることで汚水を繰り返し分解し、浄化の最終処理へと繋げていきます。
最終的にバクテリアは沈殿して汚泥へ
接触ばっ気槽で好気性菌に分解されながら浄化された汚水は、次の沈殿槽へと流れつきます。
沈殿槽では、上澄みとして上の方に浄化された水が、そして下の方にはそれまで活躍した微生物やバクテリア、まだ残る浮遊物が沈みます。
沈んだ沈殿物は、再び接触ばっ気槽に戻されますが、浄化された水の上澄みは、次の消毒槽へ少しずつ溢れて零れるように流れ出し、最後の仕上げに病原菌などを塩素で消毒し、いよいよ河川や用水路などの、外の世界へと放流されます。
浄化槽の清掃時に「引き抜き(汲み取り)」される汚泥は、この時沈殿したバクテリアが溜まったもので、次の浄化のために全部ではなく少し残して引き抜きされます。
以上のように、浄化槽の中で汚水を徹底的に浄化し、環境に影響を与えないような状態にして外に送り出す「家庭の汚水処理場」の役目を、そんな適材適所の微生物やバクテリアたちが果たしているのです。
浄化槽の微生物・バクテリアも適性の数がある
微生物(バクテリアなど)は、顕微鏡を使わないと見ることのできない、とても小さなものですが、浄化槽の中には1mlあたり1,000万〜1億個という、途方もない数のバクテリアが棲んでいます。
そんな中でも、汚水の状態や、状態回復時、酸素が足りない時など、出現する微生物の種類や数は変化します。
種類については、私たちが聞いたことがある名前であれば、
- ミジンコ
- クマムシ
- オイコモナス
- ツリガネムシ
- アメーバ
- ミズダニ
などがありますが、他にも沢山の種類の微生物が活躍しています。
そして、その微生物・バクテリアが活躍しやすいような環境に整えるには、国家資格である浄化槽管理士の経験や腕が欠かせません。
浄化槽の微生物やバクテリアは、ただ沢山いればいいというものではありません。
浄化槽の維持管理者は、今いる微生物を調べることで汚水の状態を知り、微生物の数のバランスを見て、ブロアーで送り込む空気の量を調節するなど、微生物が活躍しやすい環境作りを、経験や知識を元に行うのです。
使用者が浄化槽の状態を知り、普段の生活排水の注意点を教えてもらったり、不具合を早期発見したりするためにも、微生物の状態を保守点検の際に是非、説明を受けて把握しましょう。
汚れが増えると高くなる「BOD」
BOD(Biochemical Oxygen Demandの略称)は「どのくらい水が汚れているか」を、微生物(バクテリアなど)が有機物を分解する際に使用する酸素量で示したものです。
単位はmg/l(リットル)で表され、高いほど水質汚染が進んでいることになり、例えばBODが5mg/l以下の水でないと、魚は棲むことができません。
使用済みの天ぷら油500mlのBODは約1,500,000mg/lとされていて、もしこれを流してしまった場合、約150,000リットルの水で薄めなければ魚が棲める水質には戻せません。
浄化槽の保守点検でBODを測定した際、問題があるようなら浄化槽管理士と相談し、バクテリアの数を増やすなどの調整が必要になります。
このように、バクテリアは浄化槽だけでなく、海や川の水質の状態を計るための基準となるほど、重要であるとされています。
浄化槽から出ていった先にも微生物
浄化槽の微生物・バクテリアの詳しい解説をしてきましたが、浄化された汚水が浄化槽を出た先の世界にも、微生物は存在します。
私たちが生活するうえで、生活排水を出さないということは不可能です。
元々、川や海には自浄作用があるので、通常であればそこに棲む微生物(バクテリアなど)が、ある程度の量の有機物を浄化することができます。
しかし多量の有機物が含まれている生活排水を、浄化不足で放流すると、微生物(植物プランクトンなど)のエサが豊富になってしまうので(富栄養化)、その数が異常に増えることになります。
すると水中の酸素が不足し、生物が生息できなくなってしまいます。
また、酸素の供給が不足すると好気性菌が活動できず死滅し、嫌気性菌の活動が盛んになってアンモニアや硫化水素が発生し、悪臭がするようになります。
こうした水質汚染は「有機汚濁」といい、特に川はいわゆる「どぶ川」になってしまい、そのまま海へ辿り着くと、今度は赤潮が発生し、魚が生きていけなくなってしまいます。
浄化槽の浄化能力が低下するようなことになると、有機物(汚れ)を豊富に含んだ汚水を地域環境に放流することになってしまい、上記のような有機汚濁を引き起こすのです。
自然環境のバランスを崩さないための浄化槽ですので、自然環境に生きる微生物に悪影響を及ぼさないようにしなければいけません。
汁物や油を排水口から直接流すことを控え、定期的にしっかり保守点検をし、浄化槽の中の微生物から大切に育てましょう。
まとめ
浄化槽の主役である微生物・バクテリアについて、どんな風に活躍するのか、その特性など、詳しく解説しましたが、いかがでしたか?
私たちは何気なく排水口から生活排水を流していますが、その汚水は微生物のエサである有機物を豊富に含んでいます。
環境汚染を家庭で止める浄化槽の中の微生物やバクテリアを大切に育てるために、排水口から生活排水を流す時点で気を付けることは勿論ですが、清潔を保つための掃除やメンテナンスの際に、微生物に悪影響のない洗剤や薬剤を選ぶことも大切です。
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